銀河遊撃隊

[題名]:銀河遊撃隊
[作者]:ハリイ・ハリスン


 本書はユーモアSFに定評のあるハリイ・ハリスン氏による、パロディたっぷりのスペースオペラです。
 本作で揶揄の対象になっているのは、主にスペースオペラの大家E・E・スミス氏の作品。メインターゲットに〈スカイラーク・シリーズ〉、後半は若干〈レンズマン・シリーズ〉といった辺りですね。(他にも、ラリイ・ニーヴン氏の〈ノウンスペース・シリーズ〉等も若干含まれる模様)
 かなり皮肉的な味付けはなされているものの、ストーリーそのものはあっけらかんとした(と言うか、し過ぎた(^^;))能天気なお話です。一ページと置かずに突っ込みどころが頻出するという濃い内容で、読み進めながら思う存分突っ込みまくりましょう。それがハリスン氏の狙いなのですから、突っ込まない方がマナー違反です(笑)
 チェダー・チーズから生成した謎の物質チェダイトを使い、宇宙へと飛び出したジェリー、チャック、サリー、ジョンの四人。彼等は、銀河を我が物にしようとする凶悪エーリアン・ロートノイ族の野望を砕くために銀河遊撃隊を結成することになるのです。

 州立大学の大学生にして超一流エンジニアのジェリー・コートニー、そしてその親友である大富豪の御曹子で天才科学者のチャック・ヴァン・チダーは、粒子加速器で実験を行っていました。このとき、ジェリーは茶目っ気を出してターゲットのルビジウムをチェダー・チーズにすり替えるという悪戯を行ったのですが、その結果世にも奇妙な新物質が作り出されてしまいます。
 チェダイトと名付けられたそれは、電流を流すと物体を遠くに瞬間移動させてしまうというとんでもない性質を持っていました。二人はこれを使った物質瞬送装置・チェダイト放射機を作り上げ、大学のフットボール・チーム輸送のためのボーイング747、プレズントヴィル・イーグル号に取り付けます。発明のことを嗅ぎ付けた学長の娘サリー・グッドフェローを連れて、ジェリーとチャックはチェダイト放射機のテストをするためにジャンボ・ジェットを発進させようとしました。
 ところが、大学で下働きをする気のいい老黒人・ジョン爺いが突如機関銃を構え、それを妨害します。ジョンは実は老人ではなくソ連のスパイで、チェダイト放射機の秘密をソビエトへ持ち帰ろうと考えたのです。
 一旦はプレズントヴィル・イーグル号のトイレ内に閉じ込められた彼等でしたが、ジェリーの科学的機転により脱出に成功し、ジョンの裏をかいてチャックがチェダイト放射機を作動させます。ロシアへ向かって飛行中のジェット機を転移させるためです。
 けれども、慌てたチャックがダイヤルの数字を読み違え、プレズントヴィル・イーグル号はカナダではなく土星の衛星タイタン上空まで移動してしまいます。主導権を取り戻した三人は、ひとまずタイタンへと着陸することにしました。そこでサリーが、ジョンにはアメリカ人の血が半分流れていることを訴えかけたことで、ジョンはアメリカ的気質を呼び覚まされます。(非常に感動的なシーンです――げんなりするぐらいに(^^;))
 再び一致団結することとなった四人ですが、飛行機の外には四つの目と触手を持つ不気味なタイタン人がひしめいていました。離陸に当たっては、外で凍っている酸素を採掘しなければなりません。
 フットボールのプロテクターに身を包んで機外に飛び出し、バーナーや機関銃でバッタバッタとタイタン人をなぎ倒してゆく男性陣三人。しかし、凶悪なタイタン人はプレズントヴィル・イーグル号に隠れていたサリーを誘拐してしまいます。
 果たして彼等は無事地球へと帰還することができるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、チェダイト("Cheddite")です。
 ネーミングからして「チェダー・チーズから作られたのでチェダイト」という脱力感漂う物質ですが、どんな性質なのかとか、どう機能するのかという点でもほとんど説明がありません(笑) 「電流を流すと、チェダイトからカッパ放射波が発せられて云々」とされていますけど、「カッパ放射波って何?」と聞かれても多分ハリスン氏は考えていないでしょう(^^;)
 チェダイトは要するに一瞬にして遠くまで物体を移動させてしまうという便利アイテムですね。これを装備したボーイング747は、エーリアンもびっくりの超高性能宇宙船へと変貌してしまうというわけです。(気密性等の問題は気にしてはいけません。ジェリーとチャックは天才なので、すぐさまその問題を解決してしまいます(^^;))
 本作はスペースオペラのパロディですから、このチェダイトの存在もギャグなわけですけど、実のところネタ元の『宇宙のスカイラーク』における謎の金属Xもデタラメさ加減では大差ありません。Xは銅の質量を完全解放するという夢の触媒ですが、そこには物理学的な根拠はまったく存在しないわけですから。この辺りは、なかなかエスプリの効いた皮肉ですね。

 ストーリーや設定的にも、本作はドク・スミスの『宇宙のスカイラーク』に類似している部分がかなり見受けられます。主役が天才科学者と大富豪の青年二人という点は共通していますし、戦争中の異星人の片方に加勢した後そちらが悪役だと判明するのも同様です。末尾の締め方も良く似ていますね(〈スカイラーク・シリーズ〉最大の立役者である偉大な敵役、デュケーヌ様に相当する人物は残念ながら見当たりませんが)。主人公二人の○○疑惑は苦笑をこらえきれない部分です(^^;)
 また、中盤以降では複数のエーリアンが入り乱れることになり、〈レンズマン・シリーズ〉的色彩を帯びてきます。題名にある銀河遊撃隊("Galaxy Rangers")は、もちろん銀河パトロール隊("Galactic Patrol")のもじりですね。他にも、アリシア人とエッドール人のような超越種族、チャチカ族とロートノイ族も登場します。(アリシア人に相当するチャチカ族は、個人的にはSF界屈指の恐ろしい姿です。脳裏に描くのも嫌なくらい(笑))
 その他にも、〈ノウンスペース・シリーズ〉最大級のガジェットが無駄に登場したり、エドモンド・ハミルトン氏ばりの最終兵器クラカールが出てきたりと、パロディ要素が満載です。宇宙のどこへ行こうとも英語が通じる不思議とか、出てくるエーリアンが皆アメリカ人気質だとかのスペースオペラにありがちな適当設定も徹底的に茶化されていて、終始ニヤニヤが止まりません。

 ハリスン氏はドク・スミスの功績を認めながらも、執筆当時の一九七〇年代になっても未だ荒唐無稽なスペースオペラが書かれていることに苦言を呈していらしたそうで、この物語はそうした作品群を揶揄したものになっています。とは言うものの、作風は決して冷笑的ではなく、あくまで愛情を持ってパロディ化していることが感じ取れます。
 本作の最大の欠点は、茶化した対象であるはずのスペースオペラとして見たときにも十分以上に面白いという点でしょう。ツッコミ歓迎のスタンスは、言ってみれば開き直ったのに近い状態ですから、いわゆる「ミイラ取りがミイラに」なのかもしれません(^^;)

この記事へのコメント

  • Kimball

    うわっはっはああ!!
    こんな作品があったとは...

    ご紹介ありがとうございました!!

    早速アマ損に行きました!\(^o^)/
    お、まだ手にはいるようです。\(^o^)/

    2008年07月19日 10:36
  • Manuke

    おお、入手可能でしたか。
    思いっきりお馬鹿で面白おかしいお話ですから、人気があるのかもしれませんね。

    チャチカ族とクラカールの辺りは普通のスペースオペラとしても良くできてますし、脱力ものの発動方法も好きです。
    でも、チャチカ族だけは苦手。『あれ』は人類の敵です(^^;)
    2008年07月20日 00:13

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