非Aの傀儡

[題名]:非Aの傀儡
[作者]:A・E・ヴァン・ヴォクト


※このレビューには前作『非Aの世界』のネタバレがあります。ご注意ください。

 非A("NULL-A":非アリストテレス)哲学に習熟した超人ギルバート・ゴッセンの活躍を描く異色サスペンス第二弾です。
 前作ではいきなり自分の記憶が偽物だと判明し、しかも冒頭で殺されてしまうという大変な状況に陥ったゴッセン君ですが(^^;)、再び不可解な事態に巻き込まれてしまいます。ただし、今回は自分の立ち位置が分かっていることもあり、超強力な予備脳の能力を駆使しつつ苦難に立ち向かう姿が痛快です。
 恐るべき侵略者の魔手から太陽系を救った非A人ゴッセン。しかし、更なる敵が彼の前に立ちはだかるのです。

 銀河系大帝国の手先であるソーソンをギルバート・ゴッセンはその特殊能力を駆使して倒し、太陽系侵略を阻むことに成功しました。そして自分が、大科学者ラヴォアスールのコピーであったことを知ります。
 けれども事態はまだ終わってはいませんでした。銀河系大帝国の独裁者エンローは未だその野心を捨てていなかったのです。そして更に、正体不明の人物〈影〉が、エンローの障害となるゴッセンの行動を阻もうと目論みます。
 地球から遠く離れた惑星ヤラタには、非A人とは異なる方法で特殊能力を獲得した〈予知人〉が存在しました。その一人〈影〉は、ある目的の為エンローに与しており、大帝国の宇宙征服に邪魔なゴッセンを罠にかけ、捕えようとします。
 ところがその瞬間、ゴッセンの意識は彼の肉体を離れ、別の人間に移し替えられたのです。それは簒奪者エンローが飼い殺しにしている帝国の正当継承者、アシャージン王子の中でした。
 果たして、誰が何のためにそんなことをしたのか――再び見えざるチェスの指し手に翻弄されながらも、ゴッセンは自分本来の肉体とアシャージン王子の間を行きつ戻りつ、エンローと〈影〉に立ち向かいます。

 本書の注目ガジェットは、相似化です。
 〈非Aシリーズ〉の世界では、二つのエネルギーを小数点以下二十桁まで同調させた場合、両者が遠く離れていようとも隙間なく引き寄せられるとされています。この原理を利用した装置〈歪曲機〉で、遠く離れた場所へ転移することができるわけです。
 ゴッセンは頭蓋の中に予備脳と呼ばれる有機的な〈歪曲機〉を持っており、これを使うことで一度目で見た場所を相似化し、その場所までテレポーテーションすることができます。作中でゴッセンだけが持つ超能力ですね。
 前作の半ばで手に入れたこの相似化能力は非常に強力で、一度〈記憶〉しさえすれば自分の肉体以外のものも転移させることが可能です。他人を相似化して牢に閉じ込めたり、はたまた空を飛ぶ飛行機を相似化して柵へ激突させたりと、超人ぶりを遺憾なく発揮してくれます(^^;)
 但し、これはあくまで予備脳の持つ力であるため、ゴッセンの意識がアシャージン王子の中に閉じ込められている間は使えません。万能と無力の落差が、ストーリー上の良いアクセントになっている部分ですね。

 物語は超人ゴッセンが銀河系大帝国へと立ち向かうという形から始まりますが、中盤以降に差し掛かるとスケールが更にグレードアップしていきます。また、終盤では〈影〉の正体を突き止めるというミステリ要素も加わり、サスペンス的にも大いに盛り上がります。
 ただ、ストーリーの裏に隠された設定がいくつか謎のまま終わってしまうのは少々不満が残る部分ですね。もしかしたら、ヴォクト氏は続編を予定されていたのでしょうか。真相は闇の中ですが、そうした部分を読者が補完してしまうのも本書を楽しむ方法の一つかもしれません。

この記事へのコメント

  • おんおん

    非Aで検索してここにたどり着いた、通りすがりのヴォクト好きです。
    実は続編「Null-A Three」(ヴォクト最後の長編のようです)があったりします。

    http://www.amazon.co.jp/Null-Three-A-Van-Vogt/dp/0886770564/

    残念ながら邦訳は出ていないようです。
    大変失礼ながら、ヴォクトが亡くなった時には期待したんですが、その気配は全くなく・・・。

    ・・・で、実は通りすがりといいながら、初代8801ユーザだった私は、10年以上前からX88000のお世話になっています(非Aで検索した時は全然気づきませんでした)。
    特にWav2T88のおかげで、当時必死で打ち込んだプログラムを復元できました。

    http://www.onon.jp/~onon/game/

    この機会に、大変感謝していることをお伝えしておきます。
    2013年04月20日 14:39
  • Manuke

    いらっしゃいませー。

    > 実は続編「Null-A Three」(ヴォクト最後の長編のようです)があったりします。

    おお、そうでしたか。
    こういうとき、英語の小説を楽しめるほど英語力がないことが悔やまれます(^^;)
    ただ、書評を拝見したところ、前二作とは少々趣が違うようですね。どんな話なんだろう……。
    創元さん、ぜひ翻訳をお願いしますっ。

    > ・・・で、実は通りすがりといいながら、初代8801ユーザだった私は、10年以上前からX88000のお世話になっています(非Aで検索した時は全然気づきませんでした)

    あはは。少しでもお役に立てたのでしたら幸いです。
    おんおんさんのページを拝見しましたが、打ち込み系のラインナップが素晴らしいですね。
    夏休みに長時間かけて打ち込んだ『サウザンティス号の冒険』のテープを、間違って上書きしてしまったという悲しい記憶が蘇ってきました(笑)
    2013年04月20日 23:54
  • おんおん

    レビューされているSFも結構私の趣味とあってたりして。
    非Aもそうですが、階層宇宙やデイワールドも翻訳して欲しいところです。

    > 夏休みに長時間かけて打ち込んだ『サウザンティス号の冒険』のテープを、間違って上書きしてしまったという悲しい記憶が蘇ってきました(笑)

    その気持ち、大変によく分かります。
    ・・・って今の若い人にはまったく通じない話ですが(笑
    いや、ホント、当時は打ち込み命でした。自分でプログラミングなぞ全くせず。
    ロードランナー(LOAD RUN)か、はたまた西武労働レストラン(SAVE LOAD LIST RUN)ってやつです。
    ってこれまた若い人には(以下略
    2013年04月21日 23:58
  • Manuke

    > レビューされているSFも結構私の趣味とあってたりして。
    > 非Aもそうですが、階層宇宙やデイワールドも翻訳して欲しいところです。

    同好の士にそう言っていただけて、嬉しい限りです。
    『デイワールド』はこれからってところで放置ですからねー(^^;)
    ファーマー氏だと、〈リバーワールド〉も続編を読んでみたいですね。

    > ロードランナー(LOAD RUN)か、はたまた西武労働レストラン(SAVE LOAD LIST RUN)ってやつです。

    その呼称、懐かしいです。
    16進ダンプリストの入力は、単調な繰り返しで無我の境地に至るのが心地よかったり(笑)
    2013年04月23日 00:11
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