時間衝突

[題名]:時間衝突
[作者]:バリントン・J・ベイリー


 驚天動地のアイディアで読者の度肝を抜く奇才バリントン・J・ベイリー氏の手による、風変わりな時間SFです。
 氏の作品にはしばしば、作品の中でのみ通用する奇抜かつ傑作な理論が登場しますけど、本書は中でも最たるものです。お話の価値は、その時間理論にあります。〈現在波〉という珍妙な現象と、それにより引き起こされる「時間の衝突」に比べれば、ストーリー展開など瑣末な部分でしょう(^^;)
 地球を侵略したとされる異星人の遺跡を調べていた考古学者ヘシュケ。当初、筋が通らないと思われた遺跡の異状は、驚くべき時間の性質、そして恐るべきカタストロフへと繋がっていたのです。

 遥か未来。地球は大戦争とそれに続く〈暗黒時代〉を経て、文明を再興していました。
 多くの歴史的事実が古典文明の崩壊とともに失われていましたが、地球上のあちこちに異星人のものと思われる遺跡が発見されていたため、大戦争は異星人の侵略に対抗したものだと考えられていました。そして異星人は異常亜種(デヴィアント・サブスピーシーズ)と呼ばれる人類の亜種を作り出したと信じられており、飽くなき抗争の後にタイタン軍団率いる〈真人〉が勝利を勝ち取ります。〈地球の守護者〉を自称するエリート集団タイタンは、〈真人〉のみが人類の正当な血筋であるとし、全体主義体制を敷いて他の異種を弾圧したのです。
 そんな時代、異星人の遺跡を調査していた考古学者ロンド・ヘシュケは、ある奇妙なものに出くわします。三百年前に撮影された写真に、現在よりも老朽化した遺跡が写っていたのです。もしそれが事実なら、遺跡は時を経るごとに新しくなっていくことになります。
 もちろん、常識的に考えればそんなことはあり得ず、ヘシュケはその写真を捏造だと考えます。ところが、ヘシュケがタイタン将校に連行されて向かった先で、異星人の遺物を元にタイムマシンが完成していたこと、そして実際に時間を過去へ遡っても遺跡が老朽化していることを知らされます。
 果たして何が起こっているのかを調べるため、物理学者リアド・アスカーらとともに赴いた時間旅行の先で、彼等は生きた異星人の乗るタイムマシンと遭遇し、そして真実を知ります。
 異星人は本当は異星で生まれたのではなく、遥か未来の地球で進化した、言わばもう一つの地球人でした。彼等の時間は人類のそれと逆方向に流れており、二百年後に両者は衝突して全てが滅びる――それが事の真相だったのです。

 本書の注目ガジェットは、〈現在波〉です。
 作中世界における物理設定では、宇宙に普遍的な時間は存在せず、次元という概念も無意味です。宇宙は静的で、過去・現在・未来もありません。
 しかし、惑星の周囲では局所的に均衡が崩れて、時間の流れが発生することがあります。これにより時間軸及び三つの空間軸が生まれ、私達の知る四次元時空が作り出されるというわけです。そして〈現在波〉が時間軸の中を伝搬していき、物質に生命を与えます(生命が時間を作り出すのではなく、先に時間ありき、です)。
 ……と、言ってしまえばトンデモ理論なわけですけど(笑)、現代物理学が扱いかねている『現在』を定義してしまおうというのは面白いですね。現実の物理学では、過去と未来を隔てる『今』が何を意味しているのかを明確にできないようですが、作中理論によれば〈現在波〉のある場所ということになります。
 もっともこの理論、〈現在波〉が伝搬して宇宙が影響を受ける以上、その変化を繰り込むためにはメタ時間が必要なはずです。単に『今』の定義を一つ上に先送りしただけのようにも思えますが、あまり気にしないことにしましょう。ベイリー氏の超理論に突っ込むのは野暮というものです。:-)
 特に興味深いのは、時間が局所的な現象であるという点ですね。宇宙の別々の場所で発生する時間流はそれそれ異なる時間軸を持っており、人類・異星人の場合のように軸が同一で向きが逆ということもあれば、斜めに交差するという場合もあるようです。

 本書の展開は、タイタンが支配する地球上の物語に、宇宙に浮かぶレトルト・シティで起こる事件が交差します。
 レトルト・シティは地球を捨てて宇宙へ移住した中国人の宇宙都市で、時間を操作する技術を有し、それを応用した奇妙な社会を形成しています。時間理論に加え、鍼灸などのタームが散りばめられたインチキ臭さが魅力的です(笑)
 また、あらすじを見るとお分かりのように、舞台設定には人種差別問題が大きく関与しています。とは言うものの、これはあくまでネタの一つに過ぎず、解決方法もかなりおざなりだったりしますが(^^;)
 登場人物達は至ってシリアス、ストーリーも比較的深刻なお話ですけれども、読み進めていくと笑いがこみ上げてくるのはベイリー作品ならではというところでしょうか。こういう突き抜けたホラ話を大真面目にぶち上げてしまえるのが、SFというジャンルの面白さですね。

この記事へのコメント

  • Manuke

    なるほどなるほど……。
    こういう観点からのアプローチは、私にはないものですね。
    リムニッヒは単純にアドルフ・ヒトラーがモチーフなのかと思ってましたし(^^;)

    ラストの超強引解決は、作中で登場人物に語らせているところから見ても、分かってやってらっしゃるのでしょうねー。
    ちゃぶ台ひっくり返し的な脱力展開が、ブラックなブリティッシュ・ユーモアなのかもしれません。
    2008年06月22日 01:28

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