知性化の嵐3 星海の楽園

[題名]:知性化の嵐3 星海の楽園
[作者]:デイヴィッド・ブリン


※このレビューには前巻まで及び『スタータイド・ライジング』のネタバレがあります。ご注意ください。

 多数の登場人物と無数の出来事が織りなす銀河の一大スペクタクル、『知性化の嵐』第三巻にして最終巻です。
 辺境銀河の片隅にある休閑惑星ジージョから始まった物語は、ついにその場を種々の異星人がひしめく宇宙へと移します。筆のノリはトップギアからオーバートップへ、分厚いはずの本巻が短く感じられてしまうほどの猛スピードぶりは、銀河文明のFTL船もかくやといったところです(笑)
 これまで一惑星上のいざこざに収まっていたエピソードも、一気に超銀河規模へとスケールアップ。銀河文明の根幹に関る謎、そして〈ストリーカー〉が列強種属に追いかけ回されることになった理由が明らかにされます。
 惑星ジージョを飛び立ち、銀河宇宙へ舞い戻った宇宙船〈ストリーカー〉。隠棲類の超巨大な〈フラクタル・ワールド〉、そして更にその先で彼等が目にしたのは、ひた隠しにされてきた銀河文明の秘密でした。

 休閑惑星ジージョの民を救うため、囮となって宇宙へと飛び出したアースリングの宇宙船〈ストリーカー〉と、それを執拗に追うジョファーの巨大戦艦〈ポルクジイ〉。
 当初は超空間移動可能な遷移点へ辿り着く前に追いつかれてしまうと見られていたのですが、ジージョの〈聖なる卵〉から発せられた奇妙なビームが赤色巨星イズムヌティに影響を与えたことにより、事態は一変します。イズムヌティの表面近くに水素呼吸種属ザンの宇宙船が発見されたのです。
 水素類はヒトを含む酸素呼吸種属とは全く異なる系統の知的生命体で、通常は両者が交流することはありません。しかし、あることをきっかけとして〈ストリーカー〉はザンの協力を得ることに成功します。
 ザンの光球船に守られつつ、〈ポルクジイ〉の追撃を躱して遷移点へ飛び込んだ〈ストリーカー〉ですが、遷移点を抜けて辿り着いた先はまたしても安住の地ではありませんでした。そこはかつて、〈ストリーカー〉が引退した古い種属・隠棲類の庇護を求めたにも拘らず、手酷い裏切りによって逃げ出さざるを得なかった場所、〈フラクタル・ワールド〉でした。
 赤色矮星を丸ごと包み込む巨大なダイソン球殻であり、何百兆もの住人を有する〈フラクタル・ワールド〉は、固唾を飲む〈ストリーカー〉クルーの目前で崩壊していきます。しかしその大惨事でさえ、それに続く超巨大災害の前触れでしかなかったのです。

 本書の注目ガジェットは、Eレベル超空間("E-level Hyperspace")です。
 〈知性化シリーズ〉では、宇宙船が超光速で飛行するための手段がいくつも登場しますが、その中に物理法則の異なる超空間を通って移動するものがあります。そうした超空間の一つがE空間です。
 E空間は意識と現実の境界が曖昧な場所で、通常空間では知的存在の頭の中にしか存在しない概念が、生物とは無関係に自立することができます。“自由”だとか“渇望”といった抽象概念が、ぴょんぴょん飛び跳ねる十二本足のレイヨウや、それに襲いかかるぎざぎざの物体のように実体を持った暗喩・“喩象”として存在するわけです。(これらの概念は思念類と呼ばれ、生物に分類されているようです)
 加えてE空間では、観察する者の精神が喩象の現れ方に影響します。生身の脳が、理解できない現実に対してイメージを張り付けることで、“物体”の形状が変貌するのだとされています。
 こう書くと難解な設定のように感じられますが、E空間はどちらかと言えば作中におけるコミカル要素担当です。辺り一面にバナナの皮型の喩象が散らばり、監視ステーションがその上に乗ると滑って転ぶ、といった具合に(笑)
 E空間の設定で興味深いのは、思念類(ミームティック:"Memetic")の存在です。これは、『利己的な遺伝子』で有名な生物学者リチャード・ドーキンス氏が同書で提唱した、文化的な遺伝子・ミーム("Meme")を元ネタにしているようです。人間の文化の中にはしばしば、デマや流行のように、複数の人間の間を渡り続けて生き長らえる概念が見られますが、これを遺伝子になぞらえたものですね。
 作中のE空間ではミームが知的生物抜きに存在することができるため、これを文字通り遺伝子として自己複製を行うものが思念類です。しかも、思念類の中には更に知的生命体が存在すると設定されているようです。抽象概念を遺伝子とする知的存在というのは果たしてどんなものなのか、ちょっと私には想像が付きませんけど(^^;)

 前二巻では多数の人物により複雑かつ多面的に描かれてきた『知性化の嵐』ですが、本巻の冒頭で一旦整理され、これまでの視点は大きく三グループに整理されます。〈ストリーカー〉一行(ジリアン・バスキンらクルー達、サラとエマースン、アルヴィン達四人組)、ジョファー戦艦〈ポルクジイ〉一行(ラーク、リン、ユウアスクス)、そして〈ポルクジイ〉に拿捕された恒星船(ドワーとレティ)です。
 また、本巻から新たに、E空間の監視官であるネオ・チンパンジー青年ハリー・ハームズの視点が加わります。〈ストリーカー〉事件を当事者でない立場から眺める役割と共に、ハチャメチャなE空間に翻弄されるユーモラスなエピソードでアクセントを付けてくれます。
 本巻は濃密かつハイスピードな展開で、かつ視点が短いスパンで切り替わっていくために、「ストーリーが盛り上がったところでお預け」状態が幾度も繰り返されることになります(^^;) 一連の物語としての〈知性化シリーズ〉はまだ途中ですから、全ての謎が解き明かされるわけではないのですが、〈浅瀬星団〉での大発見から始まったTAASF〈ストリーカー〉の長い旅はようやくここで決着します。文字通り、最後まで目が離せないこと請け合いです。

この記事へのコメント

  • nyam

    どうも。知性化の嵐、わたしも読了しました(PCも壊れてた・・・)。

    なんだか最後はバタバタで、なぞも解けたような、続くような???

    疲れました。アルヴィンは幸せになってよかった。
    2008年06月30日 21:49
  • Manuke

    おお、読了されましたか。
    個人的には、〈ストリーカー〉のスペースオペラ風攻防シーンが楽しかったです(^^;)

    謎はいくつか残ったままですね。ラークの章が意味深な幕引きでしたし。
    アルヴィンはお気に入りキャラクタなので結末的には満足なのですが、ちょっと食べたりない感じもします。
    出会いの部分とか、できれば補完して欲しいところですねー。
    2008年06月30日 23:49

この記事へのトラックバック