2017年03月25日

三惑星連合軍

[題名]:三惑星連合軍
[作者]:E・E・スミス


※このレビューにはシリーズ全般のネタバレがあります。ご注意ください。


 ドク・スミスの代表作である〈レンズマン・シリーズ〉のサブエピソード、前日談的ストーリーです。
 〈レンズマン・シリーズ〉は、不死のレベルに到達した超種族アリシア人とエッドール人の対立というバックボーンがありますが、本書では長年に渡るエッドール人の暗躍と、それを陰から阻止せんとするアリシア人の一端が描かれます。
 もっとも、メインとなるのは中盤以降、人類が太陽系に進出し三惑星連合を形成した時期です(『ファースト・レンズマン』より少し前)。高度な知識を持つ凶悪海賊グレー・ロージャーと三惑星連合軍。両者の戦いに、もう一つ別の勢力が加わり、事態は混迷を深めることになります。

 二十億年もの遥かな太古、銀河系とランドマーク星雲(後に第二銀河系と呼ばれる)の二つの銀河がすれ違い、両銀河に多数の惑星が誕生することになりました。
 銀河系に存在した唯一の知的生命体アリシア人は、このすれ違いの数億年後、ランドマーク星雲内にて別の知的生命体エッドール人と接触します。この時点で両種族は既に超知性を獲得し、事実上の不死でしたが、その中身は全く異なるものでした。アリシア人は精神を信奉し知的探求を至上命題としていたのに対し、エッドール人は精神と物理を重視し他種族を支配することこそが目的だったのです。
 アリシア人は二つの種族が互いに相いれないことを認識すると、エッドール人から接触の記憶を拭い去り、自分達の存在を秘匿することにします。そして、アリシア人自身ではどうあってもエッドール人を倒せないことから、エッドールを破壊する能力を持つ種族の育成に取り掛かります――それは、何億年もの後に第三段階レンズマンを銀河に誕生させるための、遠大な計画でした。
 時は流れ、二つの銀河にはアリシア人とエッドール人以外の知的種族が誕生していきます。エッドール人第二席ガーレーンは現地人に化け、各惑星の未熟な文化に入り込んで民主的な活動を歪めていきます。地球ではアトランティス、古代ローマ、そして近代にかけて、ガーレーンの魔手により無数の暴虐が行われたのです。しかし、アリシア人の密かな助力により、地球文明は少しずつ前進し、遂には太陽系進出を果たすまでに至ります。

 そして舞台は、地球・火星・金星の住人が手を組んだ三惑星連合の時代から始まります。
 惑星間定期客船ハイペリオン号に乗客として乗っていた青年コンウェー・コスティガンは、同じ乗客の美しい女性クリオ・マースデンとの歓談中、有毒のV2ガスに襲われます。それは、乗客を装って乗船した海賊の一味が、ハイペリオン号を奪取せんと目論んだものでした。
 けれども、コスティガンはまさにこの襲撃のために送り込まれた秘密要員だったのです。コスティガンとクリオ、ハイペリオン号船長ブラッドレーの三人は拿捕され、高度な技術を有する謎の海賊グレー・ロージャーの人工小惑星に連行されるものの、コスティガンの有する技能と装備により脱出に成功します。そして、三惑星連合軍の宇宙艦隊が集結し、ロージャーの人工小惑星と華々しい宇宙戦闘を始めたのです。
 ところが、ここで誰も予期していなかったことが起こります。別の太陽系から鉄を求めてやってきた両生型知的生命体ネヴィア人が、宇宙艦隊や人工小惑星から鉄を奪取し、コスティガンら三人を貴重な生命体サンプルとして拉致したのです。
 果たして、コスティガン達の命運やいかに。

 本書の注目ガジェットは、超種族エッドール人("Eddorians"、エッドア人とも)です。
 エッドール人は不定形で、どんな生命体にも化けることができる技能を有する生物です(軟体ではなく、体を任意に硬化させることが可能)。分裂で増殖し、誕生した子供は親の完全な記憶を受け継ぐとされています。彼らエッドール人は別の時空体系から我々の宇宙へやってきた生命体であり、この時点でアリシア人同様、精神攻撃以外では事実上の不死となっています。
(なお、作中ではガーレーンが、同じエッドール人の敵対者を殺したという記述があります。惑星エッドールの堅牢な障壁に守られていなければ、全くの不死というわけではない模様)
 不寛容・支配的・貪欲・冷酷・残虐と、極めて不快な連中ですが(^^;)、同時に知能が高く有能でもあります。その生存目的はほぼ権力のみであり、他者を支配することにこそ喜びを感じるようです。元々は同一種族間で延々と権力闘争を行ってきたのですが、互いに殺すことが不可能な段階に達したため、被支配者を求めて宇宙を移動してきたわけです。はた迷惑ですね(笑) とは言え、決して排他的な種族ではなく、自らの支配欲を満たす相手には十分な報酬を与える側面もあります。
 もっとも、このエッドール人、本書ではあまり良いところがありません。冒頭でアリシア人にあっさり接触の記憶を消されたほか、身内への猜疑心のせいでアリシア人の暗躍に気づけないばかりか、グレー・ロージャー(正体はガーレーン)が格下の地球人やネヴィア人に打ち負かされるなど(ガーレーン本人は無事ですが)、超種族の割には近視眼的かつ隙が多いようです。
 一方で、アリシア人は正体を隠した上で、数億年もかかる対エッドール生物兵器(=第三段階レンズマン(笑))の育成を計画するなど、用意周到さでは遙かに上です。正直なところエッドール人は、アリシア人であれば簡単にあしらえそうなチョロい相手のように感じられます。:-)
 にも拘わらず、これほどまでにアリシア人がエッドール人を危険視した理由を妄想(^^;)してみると、それはもしかしたら恐怖だったのかもしれません。エッドール人の物質・物理知識はアリシア人を上回る節があり、実際にボスコニア戦争最終局面では惑星アリシアの破壊手段を開発しかけていました。アリシア人にとってエッドール人は初めて接触する異星人であったはずですが、当初から和睦の試みを放棄している辺り、理念を共有できない対等の相手の存在に危惧を抱いた、という側面もあるように思われてなりません。

 さて、本書『三惑星連合軍』ですが、元々は〈レンズマン・シリーズ〉ではなく、単独のスペースオペラとして『銀河パトロール隊』より前に執筆されたもののようです。
 現時点で、単独版及び〈レンズマン・シリーズ〉版の"Triplanetary"はパブリック・ドメイン化されており、どちらも閲覧可能です。比較してみると、コスティガンの活躍する三惑星連合時代のお話はほぼそのままで、グレー・ロージャーの正体がエッドール人である点以外に大きな修正は行われていません。(元の作品では、ロージャーは地球人の血を引く不老の海賊と思われます)
 つまり、エッドール人にしては迂闊なガーレーンの行動は、無理矢理別作品を〈レンズマン・シリーズ〉に組み込んだことで生じた弊害なのかもしれません。そうすると、前述のエッドール人に関する考察もかなり的外れになってしまいそうですが(笑)
 一つ興味深いのは、本書後半で無慣性航法が実用化される部分です。ネヴィア人の技術に刺激を受け、三惑星連合軍の研究者クリーブランドとロードブッシュによって完成された慣性消去技術により、新型戦艦ボイス号が予期せず光速を越えてしまいます(^^;)
 このシーン、かなり『宇宙のスカイラーク』を彷彿とされるものがあります。ドク・スミスのもう一つの看板である〈スカイラーク・シリーズ〉では、相対性理論は現実に合わないものとして光速の壁をなかったことにしてしまいますが、『三惑星連合軍』では「慣性を消す」ことで突破するという(一応の)理屈が付けられているわけですね。この設定が〈レンズマン・シリーズ〉に受け継がれることになります。
 SF作品ではしばしば、超光速を実現するための架空の技術が作中に登場しますけれど、その嚆矢と言える無慣性航法はここから始まったわけです。なかなかに感慨深いですね。
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2017年02月25日

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン

[題名]:ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン
[作者]:ピーター・トライアス


 第二次世界大戦が枢軸国側の勝利で終結した世界にて、変容したかつてのアメリカ合衆国――ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパンの姿を、二人の主人公の目を通じて描く〈歴史IFもの〉です。しばしば、P・K・ディック氏の〈歴史IF〉『高い城の男』と、巨大ロボット&怪獣映画『パシフィック・リム』を混ぜ合わせたようだ、と表されたりします(^^;)
 前者に関しては、作者であるトライアス氏ご自身がはっきりと影響を明言されており、作品の雰囲気は近いところがあります。ただ、決して続編や二次創作ではなく、独自の世界構築がなされています。(個人的には、ディストピア小説『一九八四年』のテイストを強く感じる部分もありました)
 ただ、ロボットに関する部分はどうでしょうか。本作にはメカと呼ばれる巨大ロボットが登場しますけど、メインストーリーに大きく関わる要素ではありません。作品の重苦しく猥雑なタッチと打って変わって、メカ(及び、パイロットの久地樂)の登場する場面は、イメージ的にも技術レベル的にもかなり異質です。もっとも、それがアンバランスな魅力を醸し出している点でもあるのですが(^^;)

 一九四八年七月、第〇五一番戦時転住センターに強制収容されていた日系人らは、大日本帝国軍人により開放されることになりました。皇国は新型爆弾と、ビルより高い巨人を用いてアメリカとの戦争に勝利したのです。
 しかし、日系人のエゼキエル・ソンとルース・イシムラの二人は、軍人達が天皇への忠誠を強制すること、そして原子爆弾に壊滅させられたサンノゼの惨状を目の当たりにして不安を覚えます。
 そして、時は流れて一九八八年六月末、二人の息子である石村紅巧(べにこ:女性名であることがコンプレックス、通称ベン)大尉は、USJ(テーマパークではなくユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパンのこと(^^;))ロサンジェルスのサンタモニカ検閲局でゲームの検閲を行う仕事に就いていました。
 この時代には、電卓("portical")と呼ばれる個人用携帯コンピュータ(現実でのスマートフォンより更に進化したデバイス)が普及し、社会の様々な場面で活用されています。
 ベンの仕事は主に、電卓ゲームにおけるプレイヤーの反社会的な行動を取り締まることでした。しかし、彼の勤務態度は良好ではなく、怠惰で女性にだらしのない男だと周囲には思われています。ベンには両親を反逆罪で告発し処刑させたという過去があり、その忠義が評価されつつも軽蔑の対象になっていました。
 ある深夜、かつての上司である六浦賀将軍からベンに異様な方法で連絡がかかってきます。それは、娘のクレアが亡くなったため、キリスト教式で弔って欲しいという内容のものでした。
 夜が明けてベンが勤務先へ向かうと、そこには特高(特別高等警察)の槻野昭子が待ち構えていました。六浦賀将軍はテロリストグループのジョージ・ワシントン(GW)団と手を組み、アメリカが大戦に勝利したという内容の発禁扱いの電卓シミュレーションゲーム『USA』を違法に配布しており、昭子はそれを追っていました。そして、ベンがクレアの生死について問い合わせたことが、彼女の興味を引くことになったのです。
 昭子は高圧的かつ独善的で、任務遂行のために拷問も辞さない典型的な特高課員でした。そして、六浦賀将軍を捕らえるため強制的にベンを同行させます。ベンはその言動とは裏腹に、電卓プログラミングにかけては非常な有能さを見せました。
 しかし、GW団に捕らえられてしまった昭子は拷問を受けて両腕を失い、かつ捜査の過程で犯した殺人その他の行動で皇国憲兵から国賊の冤罪を被せられてしまいます。連行される途中、憲兵の車から昭子を救い出したのはベンでした。
 二人が生き延びる術はただ一つ、六浦賀将軍の首級を挙げ、その栄誉をもって冤罪を晴らすことです。かくして、ベンと昭子はある目的を持ってカタリナ島を目指すことになるのですが……。

 本書の注目ガジェットは、メカ("mecha")です。
 メカとは要するに、人間が乗って操縦する巨大ロボットのことです。大きさは様々のようですが、ハリネズミ號の場合は描写から推測して全高五十メートル前後でしょうか。形態も、四脚や二足歩行など様々です。
 メカのブリッジは頭部にあり、パイロットは無数のケーブルに繋がれた状態で球形のゼラチン媒質の中に浮かんでいます。壁は全てマジックミラーになっていて、全方位を見渡せます。操縦方法は詳細不明ですが、パイロットの動きをトレースして動くのではないかと思われます。
 ベンが直接乗せてもらうことになるのはハリネズミ號とムササビ號で、いずれもパイロットの名前は久地樂(くじら)ですが、同一人物ではなく親子です。母久地樂はUSJ最高のメカパイロットで、優秀過ぎる故に最高機密扱いになっています。また、メカに搭乗中は総帥権があり、多少の命令違反は咎められません。一方、久地樂少年の方は皇国に属さず、完全なアウトサイダーです。
 メカが開発されたのは大戦中ですが、その後も改良が続けられています。ただし、コンピュータのサポートにより操縦しやすくなった分、機械任せのためパイロットの意図しない動作が起きることがあり、旧型をエースパイロットが操縦した場合には新旧の強さが逆転している模様です。
 アニメや特撮の世界から出てきたような巨大ロボットですけれど、作中での登場シーンはさほど多くはなく、またストーリーにもあまり関連しません。他の世界設定と比較して技術レベルが異質ですし、二人の久地樂のキャラクタ性も陰鬱な監視社会であるUSJからは少し浮いているように感じます。もっとも、そのためストーリー上で強いアクセントとなっており、重苦しい展開が続く中でメカの場面は少しホッとする部分です(^^;)
 作者のトライアス氏は日本のサブカルチャーに強い影響を受けたようで、メカはそれらへのリスペクトのようです。作者ご自身のお言葉によれば、巨大な大日本帝国を象徴させたイメージでもあるようですね。イラストレーターのジョン・リベルト氏が描かれる表紙との相乗効果で、非常に格好いいガジェットであることは疑いありません。

 メカのことばかり語ってしまいましたが(笑)、本書の核となる部分はUSJというディストピアにあります。
 戦後のアメリカは、冷戦状態の日本とドイツにより分割統治されており、西側がUSJになります。この辺りはディック氏の『高い城の男』に近いものがありますが、社会形態はずっと踏み込んでいますね。天皇を神聖化した抑圧的な軍事国家が形成されていて、一見すると人々は普通に暮らしているように見えますけど、反逆を疑われると(事実であるかどうかに関わらず)あっという間に転落してしまう恐怖を秘めています。
 主人公の一人ベンは、過去の出来事のせいで立ち位置を見失っている男性です。実際はかなり有能かつ行動力のある人物なのですが、その言動にはどこか「自分」というものが欠けているように思われます。
 もう一人の主人公・昭子はいかにも特高課員らしい態度ですが、実際にはベン以上に自分を見失っているのかもしれません。似た部分がありながらもかみ合わない二人の様は、ときに滑稽ですらあります。
 この二人の主人公に加え、全ての元凶と言える六浦賀将軍、昭子に命令を出した若名将軍、そして暗黒街ボス・工匠や電卓ヤクザのモスキート、久地樂親子といった数多くの人々を通じ、日本に支配されたアメリカ、ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパンという社会が描き出されていきます。それは到底心地よい世界とは言えません。
 一方、日本の占領に抵抗してUSJの転覆を目論むアメリカ人グループのGW団も、もはや自由の志士ではなくテロリストと化しています。残虐さにおいてはUSJと大差なく、八方ふさがりですね。
 加えて、ナチスドイツ側は更に恐ろしい社会だとUSJの人々からは認識されていて、この作品世界の未来は暗澹たるものです。あるいは、その対立すらも『一九八四年』のごとく虚構であったりするのでしょうか。
 ディック氏の『高い城の男』は現実的な社会とは言いがたい(あまり日本人らしくない)設定でしたが、本作は歴史に「もし」があったらこうなったかもしれない、と思わせるリアリティがあります。
 余談になりますが、作中の時間は終戦時と現代(一九八八年)に加え、十年前と二十八年前のエピソードがありますけど、そのどれもが六月末から七月冒頭の期間内です。特に、サンノゼに原子爆弾が投下されたのは七月四日です。なかなか意味深ですね。

 作者のトライアス氏はゲーム制作に携わっていたことがあるようで、エレクトロニック・アーツの『ゴールデンアイ ダークエージェント("GoldenEye: Rogue Agent")』等複数のゲームのクレジットに氏の名前を確認することができます。本書作品中では、コンピューターゲームの開発に関わる部分が少なからずあり、トライアス氏の経験が生かされているのでしょう。
 「巨大なロボットがドンパチするSF」という(決して嘘ではない)紹介から軽い気持ちで読み始めると、予想外のストーリーの重さに驚くことになるかもしれません(^^;) 重厚な世界設定と、登場人物達が織りなすドラマ、サイバーパンクばりの猥雑さ、そして巨大ロボットが混ざりあう、異色の傑作〈歴史IF〉です。
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2017年01月28日

Child of Earth

[題名]:Child of Earth
[作者]:E・C・タブ


※本レビュー後半では、大きなネタバレを含む考察を行っています。

 〈デュマレスト・サーガ〉第三十三巻にして最終巻です。(残念ながら、現時点で未翻訳)
 本巻はやや経緯が特殊で、別の形で発表された『Child of Earth』と『Figona』という二つの短編を一つにまとめたお話になります。どうやら、この二つは元々前日談として書かれたものらしく、短編版『Child of Earth』はデュマレストが地球を離れるときの、そして『Figona』は最初の惑星フィゴナにおけるデュマレストの成長を綴ったお話だと思われます。(短編版が入手できないため、詳細不明)
 おそらくはこの二つを『The Return』の続きとして再構成したことから、本書は妙に回想シーンの多いエピソードになっています(笑) ただ、単にデュマレストが自ら過去に思いを馳せるのではなく、むしろ強制的に思い出させられるという形式です。現在と過去を繋ぐのは、主要キャラクタであるシャンダハの特殊能力です。

 サイクランの罠を切り抜け、地球へと不時着したデュマレスト一行。しかし、その衝撃のせいで多数の死傷者が出てしまいまい、ナディーンも命を落としてしまいます。その上、着陸地点は氷と雪に閉ざされた場所で、カルダー人が期待した財宝も存在しません。
 デュマレストは船を離れて生き延びる術を探ろうと提案しますが、カルダー人達の一部は、地球にいるとされる伝説の〈輝くものたち〉("The Shining Ones")が助けてくれると信じていました。そして現実に、ハム音を立てて光る煙のような何かが現れ、デュマレストは意識を失います。
 彼が目を覚ましたとき、そこにはシャンダハ("Shandaha")と名乗る黒い肌の男がいました。彼は地球の一領主で、デュマレストを庇護したと言うのです。そして、同じ宇宙船にいた仲間は、医師のチャガル("Chagal")を残して全員死亡したと告げます。
 主人と同じ名前の〈シャンダハ〉というその施設は、命の危険こそないものの、外へ出ることはできませんでした。主人シャンダハの他には、ナダ("Nada")とデリーズ("Delise")という娘がいて、それぞれデュマレストとチャガルの世話をしてくれますが、実際のところ〈シャンダハ〉は牢獄でした。
 そしてシャンダハは、ホストとしてデュマレストにある要求をします。シャンダハは惑星バーツの少女メローム(『超能力惑星バーツ』参照)と同等の特殊能力を有しており、デュマレストの過去の記憶を再体験することを望んだのです。
 否応なしに引き出される記憶の合間に、シャンダハはデュマレストのルーツにまつわる決定的な齟齬を突きつけます。デュマレストは地球を離れるまで、宇宙や地球のことを何も理解していなかったはずなのに、(宇宙からしか確認できないはずである)過去の戦いの傷跡を地球が残しているとどうして知っていたのか、と。デュマレストはこれに答えられませんでした。
 しかし、現実主義者であるデュマレストは謎に煩わされることなく、支配者であるシャンダハの正体について推測を深めていきます。そして、チャガルと共に目論んだ〈シャンダハ〉脱出が不首尾に終わったとき、サイクランに関する思いもよらない秘密が明らかになります。
 シャンダハは何者なのか。そして、デュマレストが知った地球の真相とは……。

 本書の注目ガジェットは、ホモコン素子("Homochon Elements")です。
 ホモコン素子は、超巨大組織サイクランの中核を担う要素で、第一巻『嵐の惑星ガース』から登場する、シリーズでもお馴染みのガジェットですね。しかしながら、その詳細は謎に満ちています。
 ホモコン素子はサイバーの頭蓋の中に埋め込まれた生体素子で、普段は休眠状態ですが、サイバーがサマチャジの相("Samatchazi formulae")と呼ばれる瞑想状態に入ることで活性化されます。ホモコン素子が活動すると、サイバーは恒星間空間を超えた即時通信で、中央知性体と直接精神を結びつけ、情報交換を行うことができます。
 個々のサイバーも高い知能を有する人々ですが、ホモコン素子を使うことで、無数の生体脳を結合し超知性と化した中央知性体から助言を受けることができるわけです。また、中央知性体からの命令伝達や、サイバーから本部への報告など、情報伝達手段としても活用されています。
 もっとも、利点ばかりではなく、ホモコン素子が頭蓋中で肥大化すると命の危険に晒されることになります。作中ではサイバー・アヴロが発症していましたが、彼固有の症状だったのか、他のサイバーにも起きうることなのかは不明です。
 また、本巻ではホモコン素子に関する秘密が明らかになります。これに関しては、かなりのネタバレになってしまいますので、後述の考察で触れさせていただきます。

 ということで、本書にて〈デュマレスト・サーガ〉は全巻の終わりを迎えます。残念なことに、シリーズの中で語られた謎の多くが明かされないままです。
 ただ、そうした点を差し置いても、〈デュマレスト・サーガ〉は非常に壮大な物語であることは間違いありません。広大な銀河と無数の惑星世界、様々な怪物、多種多様な文明、複雑な社会構造、魅力的なヒロイン達。強大で冷酷な敵巨大組織サイクラン。そして何より、クールで寡黙ながら優しさを秘めたタフガイ、主人公アール・デュマレスト。
 故郷を探し求める普遍的な探索物語を、遥か未来の宇宙という舞台と見事に融合させた、ハードボイルド・スペースオペラの傑作です。

  §

 さて、作品紹介はここまでとし、以下はシリーズの残された謎について若干の考察を行いたいと思います。〈デュマレスト・サーガ〉全般、特に本書のネタバレを含むため、内容を知りたくない方はここで中断されることをお勧めします。
 考察と言っても、さほど根拠があるわけでもありません(^^;) あくまで一ファンの戯言としてお付き合いいただければ幸いです。

 レビューでも触れた通り、本巻ではホモコン素子に関連する伏線がいくつか開示されることになりました。これがその概略です。

・地球はサイクランに管理されたホモコン素子の農場である。
・ホモコン素子の正体は、変異させられた地球人の脳の一部である。
・デュマレストの脳内にもホモコン素子が存在する。
・限定的ながら、デュマレストは生身で中央知性体と交信を行うことができる。

 もっとも、一番下以外はデュマレストの推測によるものです。きっかけは、〈シャンダハ〉からの脱出を試みた際、デュマレストが中央知性体からの情報受信状態に陥ったことです。そこから、自分がホモコン素子を有していることと、その理由を考察したわけですね。この「デュマレストの脳内にもホモコン素子が存在する」が事実であり、かつ以前から交信可能だったとすると、作中の二つの謎が解けることになるかもしれません。
 一つは、中央知性体からデュマレストへの情報引き出しです。シリーズ中、デュマレストはしばしば危機的状況に陥りながらもそれを切り抜け、サイクランですらその悪運の良さを単なる偶然ではないと考え始めていました。主人公補正という身も蓋もないメタな説明を除けば(^^;)、これはデュマレストは無意識に中央知性体の情報を盗み見ていたということで説明がつくのではないでしょうか。〈デュマレスト・サーガ〉世界最強クラスの知性の力を借りられるなら、様々な局面、特にサイバーとの対峙において有利になることは疑いありません。
 もう一つは、逆にデュマレストから中央知性体への情報の逆流可能性です。知っての通り、中央知性体は深刻な異常を抱えており、いくつかのサイバーの脳髄が狂気を起こし始めています。原因が明かされないまま物語は終わってしまいましたが、仮にデュマレストのサイクランに対する憎悪がホモコン素子を通じて伝達されていたとしたら、それが知性体の異常を引き起こしたとは考えられないでしょうか。サイバーは若い時期に感情を手術で除去されていますが、サイバー・アヴロの惑星ヘヴンでの体験にある通り、精神的な繋がりによって影響を受けるようです。デュマレストの憎しみを浴びたことで、脳が内に籠ったり、あるいは自傷的になったりすることはありそうに思われます。また、それほど昔から起きているわけではなさそうなので、時期的にも符合しますね。

 上記の「以前から交信可能」が外れだったとしても、ホモコン素子の存在は今後のデュマレストにとって有力な要素であることは間違いないでしょう。サイクランはホモコン素子を利用して、中央知性体を核とする強力な情報ネットワークを形成しているわけですけれども、これに非サイバーからのアクセスが可能であるとしたら、存続自体の危機に瀕することになります。
 デュマレストは本書巻末で、精神共生体を武器にサイクランと戦うことを決意しますが、ホモコン素子の存在はそれ以上に重要かもしれません。なにしろ、彼の同胞たる地球人はホモコン素子を有しているのですから。デュマレストがホモコン素子を使えることをサイクランが気づいていないのであれば、なおのことです。
 果たして、デュマレストの戦いはどのような結末を迎えるのでしょうか。E・C・タブ氏亡き今、そこから先は読者の心の中にあります。
posted by Manuke at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする