[題名]:アヴァロンの銃
[作者]:ロジャー・ゼラズニイ
※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。
並行世界を扱ったサイエンス・ファンタジー、〈真世界シリーズ〉第二巻です。
前巻『アンバーの九王子』にて、兄エリックに破れながらも幽閉からの逃走を果たしたコーウィンですが、本巻では反撃のターンになります。
しかしながら、前巻でコーウィンが成したもう一つの事柄が、次第に不気味な色を見せ始めます。果たして彼が立ち向かうべき敵とは……。
ブレイズと共同戦線を張ってアンバーに攻め込んだものの敗北し、兄エリックにより両目を潰されて幽閉されたコーウィン。けれども、彼はアンバー王族の驚異的な回復力により視力を取り戻し、狂った魔術師ドワーキンの助力を得て地下牢からの脱出に成功しました。
脱出後、コーウィンはアンバー近くにあるガーナスの谷が黒い影に覆われていることを知ります。それは、目が潰されたときに彼が発した呪いの発現でした。アンバーの王子の呪いは実効力を持つものであり、それがアンバーを脅かしていたのです。
それを心に留めながらも、とりあえず晴れて自由の身となったコーウィンには、エリックを倒すための秘密兵器の算段がありました。その武器を用意するために、既に滅びた“影”の地アヴァロンの相似世界へと向かおうとする彼でしたが、その道中で傷ついた騎士と出くわします。それはかつて、コーウィンがアヴァロンを治めていたときの騎士ランスロットに瓜二つの男(近い並行世界なので、ほぼ同一人物)であり、コーウィンは彼を見捨てることができずに介抱することにしました。
ランスロットはその地ロレーヌを治める男ガネロンに仕えていました。そしてガネロンは、遥か昔に罪を犯したせいでコーウィンがアヴァロンから追放した部下本人のようでした。しかし、その後の経験からか、コーウィンが知っていた頃のガネロンとは異なり支配者としての風格を身に付けています。
ロレーヌは、“妖精の輪”と呼ばれる黒い領域からあふれ出る怪物に悩まされていました。長い幽閉生活で年老いた外見になっていたコーウィンは、名前をコーリーと偽ってガネロンに仕え、“輪”との戦いに加わります。そして、その“輪”がガーナスの谷と同じく自分の呪いが関わっていることに気付くのです。
“妖精の輪”との戦いに勝利した後、コーウィンは自分の正体を見抜き和解したガネロンと共に、当初の目的地であるアヴァロンへと向かうことにしました。ところが、アヴァロンへ到着したコーウィンは、その地がやはり“輪”と同じものに脅かされていることを知ります。
そして、アヴァロンの人間達を纏めていたのは――消息不明だったコーウィンの兄、ベネディクトでした。
本書の注目ガジェットは、アヴァロンの銃です。
王子達の故郷であるアンバーの世界では火薬が存在せず、このためにアンバーには銃火器がありません。どうやら、化学反応自体が並行世界毎に異なっている模様です。
しかしながら、コーウィンは過去において、ある偶然からアヴァロンで使われている「べんがら」(宝石の研磨剤)がアンバーで爆発的に燃焼することを知ることになりました(記憶を失う前なので数百年以上昔?)。これを使って銃弾を作ろうというのがコーウィンの秘策です。剣や弓矢を用いた戦いが常套手段である中に銃を持ち込むわけですから、その戦術的優位は計り知れません。
コーウィンは火薬に使う「べんがら」をアヴァロンで大量に買い込み、私達の地球に持ち込んで弾丸を製造させ、それを用いた銃を“影”から徴発した兵士に持たせてアンバーへ攻め込む、という計画を実行することになります。〈真世界シリーズ〉はファンタジー色の強い作品ですが、別々の並行世界に存在する要素を組み合わせて新兵器を生み出すという辺りはSFらしさが出ている部分ですね。
なお、「べんがら」自体はアヴァロンでも私達の地球でも爆発力がないため、どちらの世界でもコーウィンは怪訝な対応をされることになります。これに対しコーウィンは、人間の存在しない世界のナミブ砂漠で拾ってきたダイアモンドの原石で黙らせる手を取ります。自在に“影”を移動する力は便利過ぎですね。:-)
さて、題名にもあるアヴァロンですが、これはケルト神話に登場する楽園の島の名前が由来です。また、アーサー王伝説においては、アーサー王が永眠する島でもあります。
作中では、特にそうした神話との関連は示唆されず、単にコーウィンが昔支配した土地のようです。アンバーの王子達は、並行世界の中に各々自分の領地を有しており、アヴァロンもその一つということになります。
但し、コーウィンの領地である本来のアヴァロンは既に滅びており、本巻に登場するアヴァロンはその良く似たコピーです。並行世界は無数にあるため、その中からごく近いものを選ぶことができるわけですね。
全く同じ世界ではないものの非常に近いため、かつて魔術師コーウィンがこの地を支配していたという記憶が残っています。これは本物のコーウィンではなくその“影”なのですが、どういう経緯からかこの世界のコーウィンは民衆から酷く恨まれているようです。自分がした訳でもない悪事を責められてしまうのは、アンバーの王子の特権に対する代償でしょうか(^^;)
2012年05月12日
2012年05月05日
アンバーの九王子
[題名]:アンバーの九王子
[作者]:ロジャー・ゼラズニイ
無数に存在する並行世界の中心、真世界アンバー。そのアンバーの王位継承者たる王子達の諍いを描く、ゼラズニイ氏の代表作〈真世界シリーズ〉の第一巻です。(『八』ではないのでご注意ください(^^;))
ゼラズニイ氏は神話をモチーフとした物語をいくつか手がけられていますが、本シリーズもその一つです。ベースとなっているのはケルト神話やアーサー王伝説ですが、登場人物や地名などが共通するのみで、物語そのものはゼラズニイ氏のオリジナルです。
〈真世界シリーズ〉最大の見所は、何と言ってもその格好良さですね。王族の中の王族、真世界アンバーの誇り高き王子達が互いにいがみ合い、時には手を組み、父オベロン不在のアンバーを手に入れようとする様が、ゼラズニイ氏のスタイリッシュな文章で綴られており、物語世界に引き込まれること請け合いです。
記憶を失い、長らく影の地球に幽閉されていたアンバーの王子コーウィン。彼がアンバーへ帰還するとき、物語は動き出します。
あるとき、病院のベッドで目を覚ました主人公。彼の足はギプスで固められていましたが、どうして怪我を負うことになったのかは分かりませんでした。それどころか、自分の名前すら思い出せなかったのです。
しかし、主人公はこれまでにも幾度か目を覚ましかけ、そのたびに薬で眠らされていたのを覚えていました。何者かが、彼を麻薬漬けにしておきたがっているのだと理解した彼は、医師を脅して自主退院してしまいます。その際、自分の名がカール・コーリーであり、入院させたのが妹エヴェリン・フローメルだったことを知りますが、そのどちらにも覚えはありませんでした。
エヴェリンの家へ押しかけた彼は、妹に対し自分の記憶がすっかり戻っているように振る舞い、しばらく身を寄せることを告げます。妹は不審に思いつつも騙され、それを受け入れることになりました。
会話の端々から、彼の本当の名はコーリーではなくコーウィン、妹の名はフロリメル(フローラ)であり、フローラは兄エリックの命でコーウィンを監視していたらしいと察知しました。コーウィンは自分が、強い郷愁を覚えさせる場所「アンバー」の王子の一人だったことを朧げに思い出しますが、やはり記憶は戻らないままです。
そうした中、弟のランダムがフローラの館にやってきます。ランダムを追いかけてきた怪物を倒した後、コーウィンはランダムと共にアンバーへ向かうことにします。
車のハンドルを握るコーウィンは、ランダムにより周囲の光景が変化させられていくことに驚きつつも、表向きは万事承知の上であるように振舞いました。そして、二人が故郷アンバーのそばまでやってきたとき、そこから逃げ出してきた妹デアドリと出くわしました。ここでコーウィンはランダムとデアドリに、自分の記憶が戻っていないこと、何が起きているのか皆目分からないことを打ち明けます。
こうして、コーウィンは己の記憶を取り戻すため、アンバーの影である鏡像都市レブマにて、“模様”の上を歩く試練を受けることになりました。アンバーの根源を表す“模様”を踏破したことで、コーウィンは全てを思い出します――あらゆる並行世界に影を落とす真世界アンバーと、その王子たる自分、そして兄弟姉妹たちのことを。
そして……。
本書の注目ガジェットは、真世界アンバー("the true world, Amber")と、その影です。
作中においては、無数の似通った世界が重なって、並行世界を形成しています。この中でも、アンバーと呼ばれる世界が全ての中心であり、他の並行世界はアンバーの影に過ぎないと言われています(ローマのことわざをもじり、「すべての道はアンバーに通じる」とも)。私達の地球は、その影のうちの一つです。
各々の世界は独立しており、それぞれの住人達は他の並行世界が存在することすら知りません。例外はアンバーの王族達で、彼らは三つの手段で並行世界間を移動することができます。
一つ目は、ランダムが行ったように影の中を歩く方法です。これは、周囲の光景に意志の力で干渉し、情景を付け加えたり取り除いたりすることで並行世界を移動(シフト)していくもののようです。但し、アンバーの近くではこの干渉ができないため、物理的にアンバーから距離を置く必要があります。
二つ目は、王族達を象ったトランプを利用するものです。タロットカードのようなカードセットの中には、アンバーの王子・王女を描いたものが含まれており、これを使うことで異なる場所の兄弟達と会話ができる他、同意があれば会話相手の場所へ赴くこともできます。
三つ目は、アンバー宮殿の地下にある、くもの巣のような“大模様”の上を歩くことです(レブマにも同じものがあります)。アンバーの王オベロンの血を引く者だけが“大模様”を踏破することができ、試練を乗り越えたときには影を歩く能力を手に入れ、かつ一度だけ並行世界のどこへでも移動することができます。しかしながら、途中で中断してしまうと命を落とす羽目になります。
真世界アンバーの存在には謎があり、その全容を知るのはオベロンと、魔術師ドワーキンだけです(二人とも物語冒頭では消息不明)。王子達はその真相をしらないまま玉座を巡って争い、その結果が大いなる災いを招くことになるのです。
アンバーの王族に連なるキャラクタは、父オベロンとその息子九人、娘四人、そして魔術師ドワーキンです(幾人か、その子供もいる模様)。王子・王女には当然母親がいますが(異母兄弟・姉妹のため複数)、オベロンの血族ではないことからか重要な地位を持っておらず、舞台には登場しません。
王子は主人公コーウィンに加え、気まぐれなランダム、コーウィン最大の敵エリック、コーウィンを憎むジュリアン、エリック側に付いたケイン、コーウィンに瓜二つのジェラード、エリックと敵対しているブレイズ、そして本巻では消息不明のベネディクトとブランドです。また、王女はフロリメル、デアドリ、フィオナ、ルウェラの四人ですが、いずれも積極的に玉座争奪戦に関わるつもりはないようです。
王子達はおそらく不老であり、何世紀もの間若い姿のままです(コーウィンが地球へ幽閉されたのは、ロンドンでペストが猛威を振るった十七世紀)。しかしながら不死ではなく、怪我や病のせいで命を落とすこともあります。並行世界を移動する力の他にも、力が強い、傷の回復力が異常に早いといった能力を持っています。
彼らはおおむね誇り高く名誉を重んじますが、あまり他者(特に王族以外の者)への愛情というものを持ち合わせていないようです(例外はベネディクトとコーウィンぐらい?)。類似した並行世界へ移動する能力を持つため、死んだ人間とそっくりの者が生きて存在する世界を見つけ出すことができる訳で、事実上の神に近い力を有するが故の傲慢さと言えるでしょうか。
但し、コーウィンは数世紀に亘り記憶喪失状態で人間として暮らしていたことで、影の世界の人間の命も尊重するようになっており、なかなかの好人物です。彼の敵である兄エリックは、玉座に執着するかなり残酷な性格の人物ですが、記憶喪失前のコーウィンはエリックに似た性格だったのかもしれませんね。
[作者]:ロジャー・ゼラズニイ
無数に存在する並行世界の中心、真世界アンバー。そのアンバーの王位継承者たる王子達の諍いを描く、ゼラズニイ氏の代表作〈真世界シリーズ〉の第一巻です。(『八』ではないのでご注意ください(^^;))
ゼラズニイ氏は神話をモチーフとした物語をいくつか手がけられていますが、本シリーズもその一つです。ベースとなっているのはケルト神話やアーサー王伝説ですが、登場人物や地名などが共通するのみで、物語そのものはゼラズニイ氏のオリジナルです。
〈真世界シリーズ〉最大の見所は、何と言ってもその格好良さですね。王族の中の王族、真世界アンバーの誇り高き王子達が互いにいがみ合い、時には手を組み、父オベロン不在のアンバーを手に入れようとする様が、ゼラズニイ氏のスタイリッシュな文章で綴られており、物語世界に引き込まれること請け合いです。
記憶を失い、長らく影の地球に幽閉されていたアンバーの王子コーウィン。彼がアンバーへ帰還するとき、物語は動き出します。
あるとき、病院のベッドで目を覚ました主人公。彼の足はギプスで固められていましたが、どうして怪我を負うことになったのかは分かりませんでした。それどころか、自分の名前すら思い出せなかったのです。
しかし、主人公はこれまでにも幾度か目を覚ましかけ、そのたびに薬で眠らされていたのを覚えていました。何者かが、彼を麻薬漬けにしておきたがっているのだと理解した彼は、医師を脅して自主退院してしまいます。その際、自分の名がカール・コーリーであり、入院させたのが妹エヴェリン・フローメルだったことを知りますが、そのどちらにも覚えはありませんでした。
エヴェリンの家へ押しかけた彼は、妹に対し自分の記憶がすっかり戻っているように振る舞い、しばらく身を寄せることを告げます。妹は不審に思いつつも騙され、それを受け入れることになりました。
会話の端々から、彼の本当の名はコーリーではなくコーウィン、妹の名はフロリメル(フローラ)であり、フローラは兄エリックの命でコーウィンを監視していたらしいと察知しました。コーウィンは自分が、強い郷愁を覚えさせる場所「アンバー」の王子の一人だったことを朧げに思い出しますが、やはり記憶は戻らないままです。
そうした中、弟のランダムがフローラの館にやってきます。ランダムを追いかけてきた怪物を倒した後、コーウィンはランダムと共にアンバーへ向かうことにします。
車のハンドルを握るコーウィンは、ランダムにより周囲の光景が変化させられていくことに驚きつつも、表向きは万事承知の上であるように振舞いました。そして、二人が故郷アンバーのそばまでやってきたとき、そこから逃げ出してきた妹デアドリと出くわしました。ここでコーウィンはランダムとデアドリに、自分の記憶が戻っていないこと、何が起きているのか皆目分からないことを打ち明けます。
こうして、コーウィンは己の記憶を取り戻すため、アンバーの影である鏡像都市レブマにて、“模様”の上を歩く試練を受けることになりました。アンバーの根源を表す“模様”を踏破したことで、コーウィンは全てを思い出します――あらゆる並行世界に影を落とす真世界アンバーと、その王子たる自分、そして兄弟姉妹たちのことを。
そして……。
本書の注目ガジェットは、真世界アンバー("the true world, Amber")と、その影です。
作中においては、無数の似通った世界が重なって、並行世界を形成しています。この中でも、アンバーと呼ばれる世界が全ての中心であり、他の並行世界はアンバーの影に過ぎないと言われています(ローマのことわざをもじり、「すべての道はアンバーに通じる」とも)。私達の地球は、その影のうちの一つです。
各々の世界は独立しており、それぞれの住人達は他の並行世界が存在することすら知りません。例外はアンバーの王族達で、彼らは三つの手段で並行世界間を移動することができます。
一つ目は、ランダムが行ったように影の中を歩く方法です。これは、周囲の光景に意志の力で干渉し、情景を付け加えたり取り除いたりすることで並行世界を移動(シフト)していくもののようです。但し、アンバーの近くではこの干渉ができないため、物理的にアンバーから距離を置く必要があります。
二つ目は、王族達を象ったトランプを利用するものです。タロットカードのようなカードセットの中には、アンバーの王子・王女を描いたものが含まれており、これを使うことで異なる場所の兄弟達と会話ができる他、同意があれば会話相手の場所へ赴くこともできます。
三つ目は、アンバー宮殿の地下にある、くもの巣のような“大模様”の上を歩くことです(レブマにも同じものがあります)。アンバーの王オベロンの血を引く者だけが“大模様”を踏破することができ、試練を乗り越えたときには影を歩く能力を手に入れ、かつ一度だけ並行世界のどこへでも移動することができます。しかしながら、途中で中断してしまうと命を落とす羽目になります。
真世界アンバーの存在には謎があり、その全容を知るのはオベロンと、魔術師ドワーキンだけです(二人とも物語冒頭では消息不明)。王子達はその真相をしらないまま玉座を巡って争い、その結果が大いなる災いを招くことになるのです。
アンバーの王族に連なるキャラクタは、父オベロンとその息子九人、娘四人、そして魔術師ドワーキンです(幾人か、その子供もいる模様)。王子・王女には当然母親がいますが(異母兄弟・姉妹のため複数)、オベロンの血族ではないことからか重要な地位を持っておらず、舞台には登場しません。
王子は主人公コーウィンに加え、気まぐれなランダム、コーウィン最大の敵エリック、コーウィンを憎むジュリアン、エリック側に付いたケイン、コーウィンに瓜二つのジェラード、エリックと敵対しているブレイズ、そして本巻では消息不明のベネディクトとブランドです。また、王女はフロリメル、デアドリ、フィオナ、ルウェラの四人ですが、いずれも積極的に玉座争奪戦に関わるつもりはないようです。
王子達はおそらく不老であり、何世紀もの間若い姿のままです(コーウィンが地球へ幽閉されたのは、ロンドンでペストが猛威を振るった十七世紀)。しかしながら不死ではなく、怪我や病のせいで命を落とすこともあります。並行世界を移動する力の他にも、力が強い、傷の回復力が異常に早いといった能力を持っています。
彼らはおおむね誇り高く名誉を重んじますが、あまり他者(特に王族以外の者)への愛情というものを持ち合わせていないようです(例外はベネディクトとコーウィンぐらい?)。類似した並行世界へ移動する能力を持つため、死んだ人間とそっくりの者が生きて存在する世界を見つけ出すことができる訳で、事実上の神に近い力を有するが故の傲慢さと言えるでしょうか。
但し、コーウィンは数世紀に亘り記憶喪失状態で人間として暮らしていたことで、影の世界の人間の命も尊重するようになっており、なかなかの好人物です。彼の敵である兄エリックは、玉座に執着するかなり残酷な性格の人物ですが、記憶喪失前のコーウィンはエリックに似た性格だったのかもしれませんね。
2012年04月28日
ミラー衛星衝突
[題名]:ミラー衛星衝突
[作者]:ロイス・マクマスター・ビジョルド
※このレビューには『メモリー』のネタバレがあります。ご注意ください。
軍事惑星国家バラヤーに障碍を持って生まれたマイルズ・ヴォルコシガン及びその周辺を描く、〈ヴォルコシガン・サガ〉のエピソードです。作中時期はマイルズが三十歳の頃、前作『メモリー』のすぐ後になります。
機密保安庁から除隊し、デンダリィ自由傭兵艦隊提督マイルズ・ネイスミスという仮の姿を捨てることになった我らがマイルズ君。いよいよ聴聞卿としてのキャリアが始まります。
もっとも、本作はマイルズの他にもう一人、あるバラヤー人女性エカテリンが同格の主人公となり、二人の視点が交互に繰り返されてストーリーが進行していくことになります。このエカテリン、どうやら今後のマイルズにとって重要な人となる女性のようですが……。
帝国機密保安庁長官イリヤンに対する工作事件を鮮やかに解決したマイルズ・ヴォルコシガン。彼は八番目(実質は六人目)の皇帝直属聴聞卿に正式に任命され、様々な難事件の解決に当たるという新たな人生を踏み出します。
しかしながら、聴聞卿は皇帝グレゴールの目や耳として難事件に取り組むという絶大な特権を有する地位であり、異例の若さで選ばれたマイルズはその権力の使いどころが未だ把握できていない状況でした。
そんなおり、バラヤーが支配する惑星コマールで重大事件が発生します。寒冷なコマールの地表を暖めるため衛星軌道上に配置されたミラー衛星に貨物船が衝突し、七つのうち三つが破壊されてしまったのです。果たしてこれは事故なのか、あるいは破壊工作なのか――それを解明するため工学に明るい聴聞卿ヴォルシスが取り組むこととなり、マイルズは聴聞卿としての訓練も兼ねてそれに協力することになりました。
一方、コマール地球化事業省の支局長エティエンヌ・ヴォルソワソンの妻エカテリンは、伯父ヴォルシスと共に来訪したマイルズの姿を見て、興味を引かれます。突然変異に強い偏見の残るバラヤー社会で、彼のような普通とは異なる容姿の人間がどのように周囲と折り合いを付けてきたのかを知りたかったのです。
彼女の夫エティエンヌは、遺伝病のヴォルゾーン筋萎縮症(ジストロフィー)を患っており、それは九歳の息子ニコライにも受け継がれていました。けれども、エティエンヌは自分がミュータントだと白眼視されることを恐れ、治療を受けようとはしません。ニコライの将来のためにも二人に治療を受けさせたいと考えるエカテリンですが、ヒステリックで癇癪持ちなエティエンヌは妻の言うことに耳を貸さず、心を痛めていたのです。
しかし、ミラー衛星衝突事件の究明が進展していくにつれ、周囲にはきな臭い匂いが漂い始めます。地球化事業省と事件の関わり、エカテリンが知った夫の横領の事実、そして愚かさ故のエティエンヌの事故死――。
ミラー衛星衝突事件の真相を、マイルズ達は突き止め、解決することができるのでしょうか。
本書の注目ガジェットは、惑星コマールです。
バラヤーはかつて地球からの移民が行われた後、唯一の通路だったワームホールが重力異常により通行不能となり、長らく〈孤立時代〉が続きました。マイルズの祖父ピョートル・ヴォルコシガンの時代になり、新たなワームホールが発見されたことでバラヤーは再び銀河社会へ復帰したのですが、このワームホールの出口がコマールですね。
コマールは元々は独立した惑星国家であったものの、作中の時代ではバラヤーの属国となっています。これは、好戦的軍事国家セタガンダのバラヤー侵攻に手を貸したことが原因で、バラヤーがセタガンダを撃退した後に征服されてしまったためです。作中時代は征服から三十五年程が経過していますが、このときに行われた一部バラヤー人による虐殺、及び二十五年前に起きた〈コマールの反乱〉が未だに後を引き、コマール人の中にはバラヤーを恨んでいる者もいるようです。
惑星コマールは非常に寒冷で、また空気に酸素が少なく二酸化炭素が過剰であることから、呼吸マスクなしでは屋外に出ることはできません。但し、呼吸はできないものの空気自体は存在するので、マスク着用と防寒対策さえ行っていれば宇宙服のような大げさな装備は必要ありません。
コマールの都市は巨大なドームの中に存在し、人々の生活はもっぱらその内部だけで完結しています。その一方で、コマールの気候を人間が生活できるように改造する試みも行われていますが(ミラー衛星もその一つ)、その計画はあまり順調ではない模様です。バラヤーのようにほとんど手を加えることなく居住可能という惑星の方がレアケースなのでしょうね。
さて、バラヤー帝国機密保安庁の士官とデンダリィ自由傭兵艦隊提督という二足の草鞋を脱ぎ、聴聞卿となる道を選んだマイルズ。ネイスミス提督を演じている間は「アドレナリン過剰」と称されていましたが(^^;)、聴聞卿としてのマイルズはもう少し地に足が着いた様子です。
実際、この姿は『喪の山』(『無限の境界』収録)での役割に通じるものがあり、マイルズ・ヴォルコシガンのもう一つの原点とも言えます。幼くして命を落としたレイナの墓前で誓った、自らの成すべき道へ足を踏み出したようです。
一方、本巻のもう一人の主人公であるエカテリンは、冒頭でこそ夫を立てる控えめな人妻ですが、エティエンヌと決別/死後は徐々にその勇気を示していくことになります。ウィットに富み、有能かつ行動力があり、かつ髪がブルネットときては、少々マザコン気味のマイルズ君に抵抗できようはずもありません(笑)
もっとも、マイルズははっきりと恋心を自覚しますけど、エカテリンはまだそれほど明確な感情は抱いていない様子です。果たして、マイルズの新たな恋の行方はいかに(^^;)
[作者]:ロイス・マクマスター・ビジョルド
※このレビューには『メモリー』のネタバレがあります。ご注意ください。
軍事惑星国家バラヤーに障碍を持って生まれたマイルズ・ヴォルコシガン及びその周辺を描く、〈ヴォルコシガン・サガ〉のエピソードです。作中時期はマイルズが三十歳の頃、前作『メモリー』のすぐ後になります。
機密保安庁から除隊し、デンダリィ自由傭兵艦隊提督マイルズ・ネイスミスという仮の姿を捨てることになった我らがマイルズ君。いよいよ聴聞卿としてのキャリアが始まります。
もっとも、本作はマイルズの他にもう一人、あるバラヤー人女性エカテリンが同格の主人公となり、二人の視点が交互に繰り返されてストーリーが進行していくことになります。このエカテリン、どうやら今後のマイルズにとって重要な人となる女性のようですが……。
帝国機密保安庁長官イリヤンに対する工作事件を鮮やかに解決したマイルズ・ヴォルコシガン。彼は八番目(実質は六人目)の皇帝直属聴聞卿に正式に任命され、様々な難事件の解決に当たるという新たな人生を踏み出します。
しかしながら、聴聞卿は皇帝グレゴールの目や耳として難事件に取り組むという絶大な特権を有する地位であり、異例の若さで選ばれたマイルズはその権力の使いどころが未だ把握できていない状況でした。
そんなおり、バラヤーが支配する惑星コマールで重大事件が発生します。寒冷なコマールの地表を暖めるため衛星軌道上に配置されたミラー衛星に貨物船が衝突し、七つのうち三つが破壊されてしまったのです。果たしてこれは事故なのか、あるいは破壊工作なのか――それを解明するため工学に明るい聴聞卿ヴォルシスが取り組むこととなり、マイルズは聴聞卿としての訓練も兼ねてそれに協力することになりました。
一方、コマール地球化事業省の支局長エティエンヌ・ヴォルソワソンの妻エカテリンは、伯父ヴォルシスと共に来訪したマイルズの姿を見て、興味を引かれます。突然変異に強い偏見の残るバラヤー社会で、彼のような普通とは異なる容姿の人間がどのように周囲と折り合いを付けてきたのかを知りたかったのです。
彼女の夫エティエンヌは、遺伝病のヴォルゾーン筋萎縮症(ジストロフィー)を患っており、それは九歳の息子ニコライにも受け継がれていました。けれども、エティエンヌは自分がミュータントだと白眼視されることを恐れ、治療を受けようとはしません。ニコライの将来のためにも二人に治療を受けさせたいと考えるエカテリンですが、ヒステリックで癇癪持ちなエティエンヌは妻の言うことに耳を貸さず、心を痛めていたのです。
しかし、ミラー衛星衝突事件の究明が進展していくにつれ、周囲にはきな臭い匂いが漂い始めます。地球化事業省と事件の関わり、エカテリンが知った夫の横領の事実、そして愚かさ故のエティエンヌの事故死――。
ミラー衛星衝突事件の真相を、マイルズ達は突き止め、解決することができるのでしょうか。
本書の注目ガジェットは、惑星コマールです。
バラヤーはかつて地球からの移民が行われた後、唯一の通路だったワームホールが重力異常により通行不能となり、長らく〈孤立時代〉が続きました。マイルズの祖父ピョートル・ヴォルコシガンの時代になり、新たなワームホールが発見されたことでバラヤーは再び銀河社会へ復帰したのですが、このワームホールの出口がコマールですね。
コマールは元々は独立した惑星国家であったものの、作中の時代ではバラヤーの属国となっています。これは、好戦的軍事国家セタガンダのバラヤー侵攻に手を貸したことが原因で、バラヤーがセタガンダを撃退した後に征服されてしまったためです。作中時代は征服から三十五年程が経過していますが、このときに行われた一部バラヤー人による虐殺、及び二十五年前に起きた〈コマールの反乱〉が未だに後を引き、コマール人の中にはバラヤーを恨んでいる者もいるようです。
惑星コマールは非常に寒冷で、また空気に酸素が少なく二酸化炭素が過剰であることから、呼吸マスクなしでは屋外に出ることはできません。但し、呼吸はできないものの空気自体は存在するので、マスク着用と防寒対策さえ行っていれば宇宙服のような大げさな装備は必要ありません。
コマールの都市は巨大なドームの中に存在し、人々の生活はもっぱらその内部だけで完結しています。その一方で、コマールの気候を人間が生活できるように改造する試みも行われていますが(ミラー衛星もその一つ)、その計画はあまり順調ではない模様です。バラヤーのようにほとんど手を加えることなく居住可能という惑星の方がレアケースなのでしょうね。
さて、バラヤー帝国機密保安庁の士官とデンダリィ自由傭兵艦隊提督という二足の草鞋を脱ぎ、聴聞卿となる道を選んだマイルズ。ネイスミス提督を演じている間は「アドレナリン過剰」と称されていましたが(^^;)、聴聞卿としてのマイルズはもう少し地に足が着いた様子です。
実際、この姿は『喪の山』(『無限の境界』収録)での役割に通じるものがあり、マイルズ・ヴォルコシガンのもう一つの原点とも言えます。幼くして命を落としたレイナの墓前で誓った、自らの成すべき道へ足を踏み出したようです。
一方、本巻のもう一人の主人公であるエカテリンは、冒頭でこそ夫を立てる控えめな人妻ですが、エティエンヌと決別/死後は徐々にその勇気を示していくことになります。ウィットに富み、有能かつ行動力があり、かつ髪がブルネットときては、少々マザコン気味のマイルズ君に抵抗できようはずもありません(笑)
もっとも、マイルズははっきりと恋心を自覚しますけど、エカテリンはまだそれほど明確な感情は抱いていない様子です。果たして、マイルズの新たな恋の行方はいかに(^^;)

